「色域」って一体何なのでしょう?
モニターのスペックを確認すると「sRGB」とか「Adobe RGB」とか「DCI-P3」とか書かれていたりしますが、なんのことかさっぱりわかりません。
この記事ではゲーミングモニターにおける「色域」についてその概要とそれを表す様々な規格について解説します。
【2分でわかる】色域の基本概要
色域とは
機器が表現(再現)可能な色の範囲のこと。
一般的にディスプレイ製品では、色域の分かりやすい表現方法として以下のようなxy色度図が使われる。

↑のxy色度図は人間の可視領域を数値に置き換え色座標としてグラフ化したもの。
色域とは、この人間の可視領域内でどれくらいの領域を機器が表現できるかというもの。
代表的な色域の規格として、ゲーミングモニター関連ではsRGB、DCI-P3、Adobe RGBがよく使われ、たまにNTSCも使われる。
各規格で定義された色域はxy色度図上の三角形で示される。

このような図で表すので、表現できる色の数が多いと色域は「広い」、少ないと「狭い」という言い方を一般的に用いる。
ゲーミングモニターでの色域の重要性(色域が広いことのメリット)
色域の広さにより再現できる色の数が異なるので、色域が広いモニターでは、ゲーム内の世界がより鮮やかでリアルに感じられ、細部まで色彩豊かなゲーム映像が体験できます。
より臨場感があり没入感を増したゲーム体験を楽しめます。
また、再現できる色の数が多いということは、正確な色を表現できるということなので、プロゲーマーや競技シーンでは、色の違いが敵の視認やオブジェクトの識別に直結することがあります。
色深度(ビット深度)は別の概念
※色の表現に関する基礎知識として、色域と並んで「色深度(約1,670万色や8bit・10bitなどの表記)」も重要です。どれだけ滑らかなグラデーションを表現できるかを決める数値で、HDR映像との相性にも関わります。
色深度についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ゲーミングモニターで使われる色域の代表的な規格
sRGB

sRGBは国際電気標準会議(IEC)が定めた国際標準規格のRGB空間の定義です。
sRGBは現在、デジタル環境における最も一般的で広くサポートされているカラースペースとなっています。Windows環境の基準にもなっています。
ゲーミングモニターにおいても、特段広色域を謳っていない標準的な機種では、ほとんどの場合sRGBをどれくらいカバーしているかで表記されます。
Adobe RGBやDCI-P3などの広色域のカラースペースに比べるとカバーする色の範囲が狭く、特に緑や青の再現性が限られています。このため、印刷、写真編集、映像制作、HDRコンテンツなど、より広い色域が必要なプロフェッショナル用途には不十分です。
Adobe RGB

Adobe RGBは、1998年にAdobeが定めたカラースペースで、主に写真編集や印刷用途に向けて設計されました。sRGBに比べて約35%広い色域を持ち、特に緑や青の色再現性が優れています。
ゲーミングモニターにおいては、色再現性が特に高いゲームや、アートスタイルのグラフィックを楽しむ場合には、Adobe RGBの広色域が役立ちます。
ウェブや一般的なデジタルコンテンツではsRGBが標準であるため、Adobe RGB環境では色が正確に再現されないことがあります。そして逆もまた然りです。
DCI-P3
sRGBよりも約25%広い色域を持ち、特に赤や緑の表現に優れています。
Adobe RGB同様にゲーム映像のグラフィックを楽しむにはDCI-P3の広色域が役に立ちます。
「sRGB」と「Adobe RGB」と「DCI-P3」の範囲の比較

【参考】その他の色域の規格
Rec. 709
- 概要: HDTV(ハイビジョンテレビ)の標準として定義された色空間。テレビ放送や一般的な映像制作に使用されます。
- 用途: ハイビジョンテレビ、ビデオ制作
- カバー範囲: sRGBとほぼ同等の色域。HDTV制作の標準。
5. Rec. 2020 (BT.2020)
- 概要: UHD(Ultra High Definition)テレビや4K/8K映像用に定義された次世代のカラースペース。将来的には非常に広い色域をカバーすることを目指しています。
- 用途: 4K/8Kテレビ、UHD映像制作
- カバー範囲: 極めて広い色域を持ち、sRGBやAdobe RGBを大きく超えますが、現在のディスプレイ技術ではこの全範囲を表示するのは難しいです。
6. NTSC (National Television System Committee)
- 概要: NTSCテレビ放送の色域を基準とするカラースペース。元々アメリカで開発されたアナログテレビの規格です。
- 用途: アナログテレビ、初期のカラー映像技術
- カバー範囲: sRGBよりも広いですが、実際にはNTSC規格をフルに再現するディスプレイはほとんどありません。
7. ProPhoto RGB
- 概要: Kodakが開発した非常に広い色域を持つカラースペース。特に写真や映像編集で、将来的により多くの色を再現することを目指しています。
- 用途: プロフェッショナルな写真編集、ハイエンドの写真や映像制作
- カバー範囲: Adobe RGBやsRGBをはるかに超える広い色域。特に赤や緑の領域で多くの色をカバー。
8. CIELAB (Lab Color Space)
- 概要: 1976年にCIE(国際照明委員会)によって定義されたカラーモデルで、人間の視覚に基づいた色空間。理論上、すべての可視色をカバーすることができる色空間です。
- 用途: 色の測定や色再現技術の基準として、様々な産業で使用
- カバー範囲: 可視光の範囲全体をカバーする、最も広い色空間。
9. ACES (Academy Color Encoding System)
- 概要: 映画制作業界のために設計されたカラースペースで、映画や映像制作におけるワークフロー全体をカバーします。特にポストプロダクションで使用されます。
- 用途: 映画制作、ポストプロダクション、VFX
- カバー範囲: 現在のどのディスプレイでも完全には表示できないほど広範囲な色域をカバーします。
10. xyY色空間
- 概要: 色の視覚的な特性を正確に表現するためのCIEのカラーモデル。光の輝度と色相を分けて定義するため、色科学の分野でよく使用されます。
- 用途: 色測定、照明技術
- カバー範囲: 色の視覚的な特性を完全に再現可能。
広色域を実現するための最新のディスプレイ技術について
量子ドット(Quantum dot)とは

量子ドットとはナノメートルサイズの半導体化合物のことです。量子ドットは入射光を別の波長(色)に変換する特性があります。
最大の特徴はとても純度の高い単色に変換することができるという点。(また、従来のカラーフィルターのように光を吸収しないので、高輝度にしやすい特徴もあります。)
純度の高い赤色、青色、緑色を用いてこれまでの液晶モニターでは実現できなかった、「広色域」の表現が可能になります。

特に、従来の液晶パネルでは難しかった緑と赤の色が青と同じぐらいの強さで発色することが可能になり、より自然で色鮮やかな映像を可能にします。
量子ドットを採用したゲーミングモニターではsRGBを超えたAdobe RGBやDCI-P3、Rec. 2020などの広色域の規格に対応します。
ミニLED(Mini LED)とは

ミニLED(Mini LED)とは超小型のLEDライトチップおよびそれを利用したバックライト技術の名称です。従来のモニターに使用されていたバックライト用のLEDライトチップよりも遥かに小型なチップを指します。

超小型なため、従来のLEDライトチップよりもはるかに多くバックライトとして敷き詰めることが可能になります。
これにより、「非常に細かく場所と輝度を区別して点灯・消灯(ローカルディミング)」することができるため、映像上の明るい場所と暗い場所をしっかりと区別して表現することが可能になります。
ゲーミングモニターでミニLEDと表記されている場合は、つまりは超小型のLEDチップを用いたバックライト技術で、精細なコントラストと色再現を実現できると解釈すればOKです。
量子ドット技術と組み合わせることで、広色域と詳細な明暗表現が可能になり従来よりも色鮮やかでリアルな映像表現が可能になります。
ローカルディミングとは

ローカルディミング(Local Dimming)とは、ディスプレイやテレビのバックライト技術の一つで、画面上の特定のエリアごとにバックライトの明るさを調整する機能です。
ローカルディミングの性能はディスプレイのバックライトゾーン数(LEDライトチップの個数)によって上下します。ゾーン数が多いほどより細かく正確に明暗を調整でき、映像の鮮明さリアルさが向上します。
OLED(有機EL)とは

OLED(有機EL)は、電圧を与えると発行する有機EL素子をピクセル毎に並べたディスプレイ技術です。
OLEDは分厚い液晶層が必要ないため、従来の液晶パネルではできなかった、薄型化や湾曲化(曲げられる)が実現できる特徴があります。
OLEDはピクセル毎に独立して発光するため、従来の液晶モニターにあった「光の漏れ」が発生しません。(有機EL素子をOFFにすれば光が発生しない。ドット単位で光をオン・オフできる。)
そのため、ピクセル単位で真っ暗にすることができ、「完全な黒」を実現できます。これにより非常に高いコントラスト(明暗差)を表現できます。
色域も量子ドットほどではありませんが、広色域が実現可能で、従来の液晶パネルよりも色鮮やかな映像を映し出すことができます。
加えて、ゲーミング性能としては、応答速度が非常に速く(液晶モニターよりもはるかに速い)、残像発生が限りなく低減するという特徴があります。
欠点は、画面をつけっぱなしにすると(長時間発光し続けると)、「画面に残像が出現して消えない」「画面全体の色が赤や黄色に焼けて見える」というような焼付き現象が発生する場合があることです。このため、一般的に有機ELは液晶パネルよりもパネル寿命が短いです。
QD-OLED(量子ドット×有機EL)とは

「QD-OLED」とは 「量子ドット(QD)」と「OLED(有機EL)」を組み合わせたディスプレイ方式で、OLEDの色域や輝度を強化することができます。
OLEDのディスプレイ方式は
- RGBに発光する有機EL素子を利用した「RGB方式」超高コスト・広色域
- 白色に発光する有機EL素子の光をカラーフィルターに通してRGBを得る「カラーフィルター方式」中コスト・中広色域
の2つに大別されます。
RGB方式は純粋に有機EL素子のみを使用した方式で性能が優秀な反面、超高コストで普及には向いていません。
コストが安く一般的に用いられるのがカラーフィルター方式です。ただし、この方式はカラーフィルターに吸収され失う光量が多いため、低輝度になりやすく、輝度を高めるために大きなエネルギーが必要になる欠点があります。
QD-OLEDは従来のカラーフィルターを量子ドットフィルターに置き換えたもので、青色に発光する有機EL素子の光を前面の量子ドットフィルターに通して赤色と緑色を得て、様々な色を実現します。
カラーフィルターではなく量子ドットを使用するので、純度の高い単色(RGB)を得られ、光を吸収しないため輝度がほとんど減衰しない特徴があります。
これにより、さらなる広色域化の実現と、従来の有機ELの弱点であった低輝度の問題を解決します。
低エネルギーで輝度を確保できるため、カラーフィルター方式よりも消費電力を抑える効果もあります。
色域の面積比とカバー率の違いに注意
色域の面積比
色域を表現するときに例えば「Adobe RGB比~%」や「sRGB比~%」という表現を用いている場合、これらはあくまで面積比であって、Adobe RGBやsRGBの色域をどれくらいカバーできているかは不明です。
色域のカバー率(こちらのほうが分かりやすい)
一方で、色域のカバー率での表現(「Adobe RGBカバー率98%」「sRGBカバー率100%」など)であればそのディスプレイがどのくらいの色を再現できるかは一目瞭然です。
ユーザー視点ではカバー率表記のほうが分かりやすいです。
色域の広さがゲームに与える影響
色の鮮やかさとリアリティーが向上する
広い色域を持つモニターは、ゲーム内の世界をより鮮やかでリアルに表現できます。
特に、自然の風景やファンタジーの世界など、色彩豊かなシーンでその効果が顕著です。
広い色域によって細部の色合いが豊かになり、没入感の高いゲーム体験が可能になります。
細かい色の差異を見分けやすくなる
色域が広いと、微妙な色の違いがより正確に表現されるため、競技性の高いゲームでは有利になる場合があります。
たとえば、敵キャラクターが背景に溶け込んでいる状況でも、広い色域によってわずかな色の違いを認識しやすくなり、状況判断の正確性と速度が向上します。
HDR併用でより効果を発揮する
広い色域は、HDR(ハイダイナミックレンジ)技術と相性が良く、明るい部分と暗い部分のコントラストがさらに強調されます。
これにより、暗い場所での敵の視認性が向上します。
また、光や影の効果がよりダイナミックで現実感のあるものになります。例えば、太陽光の反射や炎の輝きがリアルに再現され、ゲームの臨場感が増します。
眼精疲労の軽減に期待できるかもしれない
広い色域のモニターでは、自然な色合いを再現できるため、長時間のプレイでも視覚的な疲労が軽減されることがあります。
色域が広いゲーミングモニターでもリフレッシュレートや応答速度は重要
色域とリフレッシュレートとの関係
色域が広く色鮮やかなゲーム映像もリフレッシュレートが低くカクカクした映像ではその感動や没入感は激減してしまいます。
「AAAオープンワールドゲーム」や「アドベンチャーゲーム」、「RPG」、「没入感の高いシミュレーションゲーム」などのジャンルを遊ぶ際も、FPSやTPSなどの競技性が高く動きの速いゲームほどではなくても高いリフレッシュレートでゲームを遊ぶことでより良いゲーム体験が可能になります。
リフレッシュレートは概ね90Hz以上を確保すると体感でも60Hzとの違いが分かり、ヌルヌルとした映像と感じるようになります。より映像の滑らかにするために120Hz以上を確保したいです。
ただし、ゲーム内のグラフィック設定の向上はリフレッシュレートとのトレードオフになるので調整が必要です。
色域と応答速度との関係
応答速度はゲーム映像の残像にかかわる数値です。応答速度が遅いとゲーム映像に残像が発生してしまい、リフレッシュレートと同様に、ゲーム体験の感動や没入感は激減してしまいます。
どんなゲームジャンルを遊ぶにせよ残像が発生しないように応答速度は5ms以下、できれば1ms以下になるようにしたいです。
おすすめの広色域ゲーミングモニター3選
ここからは以上の解説の内容を踏まえたうえで、広色域なゲーミングモニターのことが気になる人のために、特におすすめできる広色域ゲーミングモニターを3製品紹介します。
さらに多くの広色域ゲーミングモニターを確認したい方は以下の記事をご覧ください↓
IODATA GigaCrysta EX-GDQ271JLAQ【27インチ・WQHD・200Hz】
| モニター技術 | 量子ドット Mini LED |
| 画面サイズ | 27インチ |
| 解像度 | WQHD(2560×1440) |
| パネルの種類 | AHVA(IPS系)「【IO-DATA】AHVAパネルってなに?IPSパネルとは違う?」 |
| リフレッシュレート | 200Hz(DP接続時)※HDMI2.1は最大144Hz |
| 応答速度 | 0.9ms(GTG/200Hz・OD Lv3時) |
| Display HDR | |
| 色域 | DCI-P3カバー率:98%、Adobe RGBカバー率:100%、sRGBカバー率:100% |
| 入力端子 | DisplayPort(HDCP 2.2)×1、HDMI2.1(HDCP 2.3)×2 |
| スタンド機能 | 高さ調整(120mm)、チルト(上20°/下5°)、スイベル(左右45°)、ピボット(左右90°) |
| USBハブ機能 | ー |
| スピーカー | 2W+2W(ステレオ)、ヘッドホン端子(3.5mm) |
| VESAマウント | 100×100mm |
| 公式サイトURL | https://www.iodata.jp/product/lcd/gaming/ex-gdq271jlaq/ |
INNOCN GA32V1M【32インチ・4K・160Hz】
| モニター技術 | 量子ドット Mini LED |
| 画面サイズ | 32インチ |
| 解像度 | 4K UHD(3840×2160) |
| パネルの種類 | IPS |
| リフレッシュレート | 4K/160Hz、フルHD/320Hz(デュアルモード切替) |
| 応答速度 | 1ms |
| Display HDR | |
| 色域 | DCI-P3カバー率:99%、Adobe RGBカバー率:99%、sRGBカバー率:99% |
| 入力端子 | HDMI 2.1 ×2、DisplayPort 1.4 ×2、USB Type-C(90W給電対応)×1 |
| スタンド機能 | 高さ調整、チルト、スイベル対応(詳細情報は未確認) |
| USBハブ機能 | USB Type-A 3.0×2 |
| スピーカー | 内蔵(詳細不明) |
| VESAマウント | 100 × 100 mm |
| 公式サイト / 製品ページ | ー |
MSI MPG 271QRX QD-OLED【OLED(有機EL)・27インチ・360Hz】
| モニター技術 | 量子ドット 有機EL |
| 画面サイズ | 26.5インチ |
| 解像度 | WQHD(2560×1440) |
| パネルの種類 | QD-OLED(量子ドット×有機EL) |
| リフレッシュレート | 360Hz |
| 応答速度 | 0.03ms(GTG) |
| Display HDR | |
| 色域 | sRGBカバー率:100%、AdobeRGBカバー率:98%、DCI-P3カバー率:99% |
| 入力端子 | DisplayPort 1.4a ×1、HDMI 2.1 ×2 |
| スタンド機能 | 高さ調整 0~110 mm、チルト −5°~15°、スイベル −30°~30°、ピボット ±90° |
| USBハブ機能 | USB 2.0 Type-A ×2 |
| スピーカー | ー |
| VESAマウント | 100×100 mm |
| 公式サイトURL | https://jp.msi.com/Monitor/MPG-271QRX-QD-OLED |
32インチモデル↓





