HDRは従来のモニターよりも現実に近い映像を映し出すことができる機能です。
HDRは表現できる輝度(ディスプレイの明るさ)の幅が従来のモニターよりも広くなります。
このようにHDRは素晴らしい機能です。
しかし、同時にデメリットも存在し、全てのゲームプレイヤーにとって必ずしもベストな選択肢とはなりません。
HDR機能の基本とメリットとデメリットを確認し、HDRがおすすめな人とそうでない人を解説します。
HDRの基本
HDRとは

HDRでは、暗いシーンの細部や明るいシーンの輝きがより鮮明に映し出され、細かい色のニュアンスが表現できるため、より現実に近いリアルで臨場感のある映像体験が可能となります。
HDRは「High Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)」の略で、直訳すると「高いダイナミックレンジ」となります。
「Dynamic Range(ダイナミックレンジ)」とは、映像の中で再現できる「最も明るい部分」から「最も暗い部分」の輝度の差もしくはその範囲を指します。
最も明るい←←ダイナミックレンジ→→最も暗い
HDRはこのダイナミックレンジが「High=広い(高い)」という意味で、通常のモニターよりも広い範囲の明るさを表現できる技術です。
HDRが搭載されていない通常モニターの標準のダイナミックレンジはSDRと呼ばれています。SDRは「Standard Dynamic Range(スタンダードダイナミックレンジ)」の略。
HDRが登場するまではSDRが標準的なダイナミックレンジでテレビや映画、写真など様々なメディアで使用されてきました。
現在のディスプレイ技術や映像コンテンツの進化に伴い、よりリアルで色彩豊かな表現が可能になり、それに応える形でHDRが登場しました。
モニターのHDR性能は「Display HDR」で表す

モニターのHDR性能は「Display HDR」という規格で段階分けされて、理解しやすくなっています。
Display HDR規格ではHDRの性能は以下の表のように分けられています。
| パネルの種類 | Display HDR規格 | 最小ピーク輝度 (cd/m2) | 色の範囲 | 代表的な調光技術 | 最大黒レベル輝度 (cd/m2) | バックライト調整の最大遅延時間 (ビデオフレーム数) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 液晶パネル | DisplayHDR 400 | 400 | sRGB | 画面レベル | 0.4 | 8 |
| DisplayHDR 500 | 500 | WCG | ゾーンレベル | 0.1 | 8 | |
| DisplayHDR 600 | 600 | WCG | ゾーンレベル | 0.1 | 8 | |
| DisplayHDR 1000 | 1000 | WCG | ゾーンレベル | 0.05 | 8 | |
| DisplayHDR 1400 | 1400 | WCG | ゾーンレベル | 0.02 | 8 | |
| 有機EL(OLED) パネル | DisplayHDR True Black 400 | 400 | WCG | ピクセルレベル | 0.0005 | 2 |
| DisplayHDR True Black 500 | 500 | WCG | ピクセルレベル | 0.0005 | 2 | |
| DisplayHDR True Black 600 | 600 | WCG | ピクセルレベル | 0.0005 | 2 |
Display HDR~の「~」の部分の数字が大きくなると性能が上がります。
非常に単純で分かりやすいですね。
HDR対応のゲーミングモニターと言われても、実際にスペックの詳細を確認しなければどれくらいの性能なのかはっきりしません。
中にはHDRと謳っていてもSDRと大差ない「なんちゃってHDR」もわりとはびこっています。
こうした現状では偽物HDRを買わされて消費者が不利益を被る可能性があります。
そこで、HDRの性能が一目でわかるように、PCモニターの国際団体VESAが認証した規格として「Display HDR」というものが登場しました。
HDRにはいろんな映像データの規格が存在する(ちょっとややこしい)
以下はHDRの映像データの規格の種類です。最も普及しているのが「HDR10」という規格で基本的にどんな場面でもHDRといったらHDR10のことを指していると思っておけば大丈夫です。
他の規格は「へーこんなのがあるんだー」程度で構わないです。
- HDR10:
- 開発元: CTA (Consumer Technology Association)
- 特徴: オープンスタンダードで広く採用されている。一般的なHDRの基準。
- HDR10+:
- 開発元: Samsung・20世紀フォックス・パナソニック
- 特徴: HDR10の拡張版。シーンごとに最適な色や輝度を調整できる。
- Dolby Vision:
- 開発元: Dolby Laboratories
- 特徴: シーンごとやフレームごとに最適化された画質。高い輝度と色の再現性。
- Advanced HDR by Technicolor:
- 開発元: Technicolor
- 特徴: SDRとHDRの両方のコンテンツを効率的に配信する技術。複数のHDR技術をサポート
- HLG (Hybrid Log-Gamma):
- 開発元: BBC・NHK
- 特徴: 従来のSDRとの後方互換性。放送業界での利用が想定されている。
HDRのメリット・デメリット
HDRのメリット
メリットはHDRの基本で解説した通りで、従来よりも表現の幅が広がることで、リアルで臨場感のある映像を楽しめるようになります。
もっと詳細で具体的なメリットとして分解すると以下のようなものになります。
- 広い輝度範囲: 明るい部分と暗い部分を同時に詳細に描画し、よりリアルな映像体験を提供する。
- 鮮やかな色の再現: 広い色域をサポートし、より自然で色鮮やかな映像表現が可能。
- 細かい明るさの差異: 暗いシーンでも明暗の詳細な差異によりディテールがはっきりと見える。
- 没入感の向上: リアルな映像再現により、より映画やゲームに没入できるようになる。
HDRは映像の鑑賞体験をより良いものにしてくれます。
HDRのデメリット
HDRのデメリットは以下の通り。
- 高スペックなハードウェアを要求:HDR対応の高価な再生機器・PC・ゲーム機などが必要
- モニター価格:HDR対応のモニターはSDRモニターよりも1.5倍~3倍ほど高額になる
- コンテンツの不足:映画やゲームなどで全てのコンテンツがHDR対応しているわけではない
- 規格の多様性による混乱:規格の種類のところで軽く触れましたが、まだ完全に規格が統一されておらず、全てのデバイスが全規格をサポートしているわけではない
- 過度な映像調整:一部のコンテンツやモニター、もしくはそれらの組み合わせによって、不自然な色の強調やコントラストの過度な調整が行われる場合がある
HDRは素晴らしい機能ですが、いくつか問題も抱えており、まだまだハードルが高いです。
コンテンツがHDR対応しているのはもちろん、それを再生するプレイヤー・PC・ゲーム機等の機器、そしてモニターの全てがHDRに対応している必要があるのでHDRを楽しむためにはかなり高額な再生環境の構築が必要になります。
従来の映像で全く不満の無い人にとってはモニターとコンテンツ両方の価格が上がるので、魅力的では無いかもしれません。
HDR400までは意味がない!?HDR機能で絶対に知っておくべきこと
ゲーミングモニターにはHDRが採用されているモデルがそれなりの比率で存在しますが、その全てがHDRの恩恵を得られるかというと案外そうでもないのです。
HDRにはその性能によって段階があります。
もう一度Display HDRの性能一覧表を見てみましょう。注目して欲しいところを赤色にしています。有機ELはあまり性能差がないので今回の説明では省きます。

| パネルの種類 | Display HDR規格 | 最小ピーク輝度 (cd/m2) | 色の範囲 | 代表的な調光技術 | 最大黒レベル輝度 (cd/m2) | バックライト調整の最大遅延時間 (ビデオフレーム数) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 液晶パネル | DisplayHDR 400 | 400 | sRGB | 画面レベル | 0.4 | 8 |
| DisplayHDR 500 | 500 | WCG | ゾーンレベル | 0.1 | 8 | |
| DisplayHDR 600 | 600 | WCG | ゾーンレベル | 0.1 | 8 | |
| DisplayHDR 1000 | 1000 | WCG | ゾーンレベル | 0.05 | 8 | |
| DisplayHDR 1400 | 1400 | WCG | ゾーンレベル | 0.02 | 8 |
表を見てみるとHDR400とHDR500の間に壁があることが確認できますね。
HDR400では最小ピーク輝度、色の範囲、調光技術、最大黒レベル輝度とHDRの性能で重要な部分が全て劣っており、正直なところSDRと大差ないです。
つまり、SDRと明確に違いが現れるのはHDR500からで、HDR500以上でなければほとんど意味がないということを知っておいてください。
HDRの恩恵を得るならば最低でもHDR500、できればHDR600以上を選びたいです。
HDR500以降を取得しているゲーミングモニターははっきりと価格も高くなりそれらは全て高級モデルとして売り出されています。
現在市場にある高級モデルにはHDR600を取得したモデルが多いです。
HDR対応のゲーミングモニターを購入検討している場合はよくスペックの詳細を確認し、それが本当に価格の上昇に見合うものなのかきちんと判断しましょう。
- HDR10・・・単にHDRの映像データを画面に表示できるというだけで、HDRの映像効果は無い。
- HDR400・・・SDRとの差がほとんどないためHDR機能を期待して選ぶ意味がない。
- HDR500以降・・・SDRと比べて明確に差があるためHDR映像やゲームを楽しみたいなら予算に応じて500→600→1000→1400と性能を選ぶ。
HDRについてよく知らないユーザーに製品のインパクトを与えるためです。製品の価格が多少上がっても、「なんか良さそう」という雰囲気を感じさせれば買ってもらえるからです。
HDR認証の取得にもお金がかかりますから、HDR400に適合していてもコストダウンとしてあえて取得していないゲーミングモニターも多くあります。
結論:【HDRの必要性】どんな人におすすめの機能か?
HDRが必要な人はこんな人
- 映画愛好家
- RPGやシミュレーションジャンルのコアゲーマー
- 映像制作者やフォトグラファー
映画愛好家
映画鑑賞が趣味であれば、HDRはぜひとも欲しい機能の一つです。
SDRのモニターを使うよりもHDRで鑑賞するほうが遥かにシーンの細部まで見ることができ、きらびやかな表現もダークな表現もどちらも従来のモニターでは味わえない感動が体験できます。
映画では映像によってメッセージを伝えるものも多く、また、映像美を追求した映画もあります。
監督や制作スタッフが真に伝えたかった映画のメッセージがそのままダイレクトに味わえるのですから、SDRからHDRに切り替えることでさらなる満足感が得られるかもしれません。
RPGやシミュレーション、オープンワールドのコアゲーマー
近年のAAAタイトルはその映像美は息を呑むほどです。Unreal Engine5が採用されたゲームタイトルも今後は増えていき、ゲームの表現力はさらに1歩先へ進みます。
Unreal Engine5はゲームエンジン(ゲームを制作する統合ソフトウェア)の一つ。美麗なグラフィック表現を作りやすい特徴がある。
これに伴いHDR対応のタイトル及び高性能なゲーム機やGPUも今後はどんどん増えていくでしょう。
さらなる没入感、そして感動が味わえる次世代のゲーム体験をしたいならHDR対応のモニターを先回りして持っておくのは決して高い買い物とはなりません。
映像制作者やフォトグラファー
HDRはその広いダイナミックレンジにより、色の再現性が高いです。
制作者が意図した通りの色を再現でき、自分の作りたい映像や写真の表現が可能になります。
また、扱える輝度と色が多いおかげで露出の調整や色味の変更の柔軟性も高くなります。
そして当然ですが、HDRコンテンツを作るにはHDR対応のモニターで作成する必要があります。
映像技術は常に進化しており、HDRは新しいスタンダードとなりつつあります。プロとしての競争力を保つためには、最新の技術や規格に迅速に対応することが求められます。
HDRがいらない人はこんな人
- モニターの用途がインターネット閲覧や文章作成、エクセル、パワポな人
- 動きの速いゲームをプレイする人
- 予算に限りがある人
モニターの用途がウェブ閲覧や文章作成、エクセル、パワポな人
映像コンテンツに重きを置いていない人にとってはHDRなど無駄です。
SDRだって別に映像が汚いわけでもないですし、動画サイトの動画もHDR対応していないものが99%と言っていいでしょう。
ちゃんとしたHDRモニターはモニターの中でも高級品なので映像にそこまでこだわりがない人には必要ないです。
動きの速いゲームをプレイ人
美麗なグラフィックなゲームよりも、FPS等の対戦アクションゲームや動きの激しいゲームを遊ぶ比重の高い人も多いはずです。
対戦型のゲームでは視認性を良くするためにリフレッシュレートがなによりも大事です。
どんなに高スペックなゲーミングPCでもHDRでグラフィックを向上させた状態でリフレッシュレートを120Hzだったり240Hzに保つのは容易ではありません。
FPSプロの多くはグラフィック設定を下げることで、高いリフレッシュレートを確保している人も多くいます。
自分がどういうジャンルのゲームを遊ぶことが多いのかを考えて、予算が豊富にあるのであればHDR対応ゲーミングモニターを購入しても良いです。
しかしそうでないなら、素直にリフレッシュレートの高い標準的なゲーミングモニターを購入することをおすすめします。
予算に限りがある人
まともなHDRゲーミングモニターは標準的なゲーミングモニターよりも2~3倍かそれ以上の価格になることが多いです。
普通のゲーミングモニターでさえ144Hz以上のものであれば2~3万円、240Hzであれば3~5万円なので、きちんとしたHDRゲーミングモニターとなれば価格が10万円を超えることもあります。
HDRはモニターだけ対応していたら良いわけではなく、コンテンツもそれを再生する機器も対応している必要があり、それらにもお金がかかります。
また、HDRコンテンツのデータ容量も普通のコンテンツよりも多くなるので、ストレージにもお金を掛ける必要があります。また、ストリーミング再生であれば回線が強くないといけません。
HDRコンテンツをフルに楽しもうと思ったら、普通の環境を構築するよりもトータルで2~3倍の出費になります。
あまり予算に余裕がない人はHDRなんて最初から選択肢から除外することをおすすめします。
おすすめのHDR対応ゲーミングモニター3選
最後に、ここまで読んでHDR機能に興味を持った方向けに、HDRとして本当に意味のあるHDR600以降を採用しているゲーミングモニターで、特におすすめできる3機種を紹介します。
【Display HDR 600】Dell AW2724DM
| 画面サイズ | 27インチ |
| 解像度 | WQHD(2560 x 1440) |
| パネルの種類 | IPS |
| リフレッシュレート | 180Hz(OC時)通常時は165Hzが最高 |
| 応答速度 | 1ms(GTG) |
| HDR | |
| 色域 | sRGBカバー率:100% DCI-P3カバー率:95% |
| 入力端子 | DisplayPort 1.4×2 HDMI 1.4×1 |
| スタンド機能 | 高さ・チルト・スイベル・ピボット調節機能 |
| USBハブ機能 | 有り |
| スピーカー | なし |
| VESAマウント | 有り 100x100mm |
| 公式サイトURL | https://x.gd/tckR1 |
HDR600認証のコスパの良いモデルを選ぶならこの「Dell AW2724DM」がおすすめです。
「Dell AW2724DM」はゲーミングモニターとして必要なスペックはきっちりとおさえつつ、うまく無駄を省いたスッキリとした設計になっています。
無駄なコストを掛けないコスパの良い製品に仕上がっている機種です。
リフレッシュレートが最高180Hzなことを懸念されるかもしれませんが、HDR600及びQHD解像度環境で240Hz出すことは現在のゲームシーンではPCスペック的に現実的ではないので、あんまり気にしなくていいです。
【Display HDR 600】BenQ MOBIUZ EX270QM
| 画面サイズ | 27インチ |
| 解像度 | WQHD(2560 x 1440) |
| パネルの種類 | IPS |
| リフレッシュレート | 240Hz |
| 応答速度 | 1ms(GTG/MPRT) |
| HDR | |
| 色域 | DCI-P3カバー率:98% |
| 入力端子 | DisplayPort 1.4×1 HDMI 2.1×2 |
| スタンド機能 | 高さ・チルト・スイベル・ピボット調節機能 |
| USBハブ機能 | 有り |
| スピーカー | 2.1Ch (2Wx2 + 5W ウーファー) |
| VESAマウント | 有り 100x100mm |
| 公式サイトURL | https://www.benq.com/ja-jp/monitor/gaming/ex270qm.html |
HDR600にリフレッシュレート240Hz、応答速度1msとどんなゲームも最高品質で楽しめるほか、映画、ドラマ、音楽、コンテンツ制作どれをとってもハイパフォーマンスにこなすことのできる一台です。
高級機なため、パネル品質が優れています。
BenQ MOBIUZシリーズは内蔵スピーカーが特徴で、ウーファー付きの2.1chな高品質なスピーカーを搭載しています。
4K解像度版の「BenQ MOBIUZ EX2710U」もあります↓
【Display HDR 600】Dell G3223Q
| 画面サイズ | 32インチ |
| 解像度 | 4kUHD(3840 x 2160) |
| パネルの種類 | IPS |
| リフレッシュレート | 144Hz |
| 応答速度 | 1ms(GTG) |
| HDR | |
| 色域 | sRGBカバー率:99% DCI-P3カバー率:95% |
| 入力端子 | DisplayPort 1.4×1 HDMI 2.1×2 |
| スタンド機能 | 高さ・チルト・スイベル・ピボット調節機能 |
| USBハブ機能 | 有り |
| スピーカー | なし |
| VESAマウント | 有り 100x100mm |
| 公式サイトURL | https://x.gd/D6jLc |
HDRゲーミングモニターの中で32インチの大画面4K解像度がほしいならば「Dell G3223Q」がおすすめです。
32インチの大画面になると選択肢はそれほど多くありません。しかもHDR600以降となればなおさら。
ただ信頼のあるゲーミングモニター大手のDellであれば安心です。
価格もほぼ100,000円と4Kで32インチもあるゲーミングモニターとしては破格の安さです。
リフレッシュレートは144Hzとゲーミングモニターとしては最低限といった感じですが、4K解像度で144Hz以上出すことはほぼ不可能なので、現実的なスペックに落とし込んで、価格を安くしてくれていてある意味設計者の優しさが垣間見えます。





